他業種からの参入
管理会社が、残置物を買い取るとき。先に決めるのは、誰の物かです。
退去のあとの部屋に、物が残っている。処分費が出るその中に、値段が付く物が混ざっています。ただ、残置物は管理会社の物ではなく、勝手に処分も売却もできません。買い取る前に決めることを、公的資料で確かめられる範囲で書きます。
安場 達也古物査定の窓口 代表
買取業界歴15年以上。査定の現場から店舗の管理者、そして経営者まで、同じ道を順番に通ってきました。
北海道から沖縄まで、開業と店舗運営の支援実績があります。
大阪府公安委員会 古物商許可 第62229R076686号
公開 2026年10月5日
更新 2026年10月5日
この記事は、賃貸の管理会社向けです。
空き家の売却に残る物は不動産業者・空き家の記事に書きました。
ここでは、退去や入居者の死亡のあとに部屋へ残る物を、管理の立場から扱います。
法律の判断は、個々の事情で変わります。
迷う場面は、弁護士や司法書士にご相談ください。

佐藤さん(開業を検討中)管理会社が、退去した部屋の残置物を買い取ってもいいんですか?
先に結論安場さん
- 入居者が亡くなると、残置物の所有権は相続人に承継されます(国土交通省のガイド)
- 管理会社の物ではないので、勝手に処分も売却もできません。
法的根拠が不明確なことは、国土交通省の検討会報告書も書いています
- 買い取るなら、古物商許可・所有者の同意・見極める力の3つが要ります
- 自社で買うのが難しいなら、許可のある業者に査定を頼む形があります。
管理会社は、同意と記録の側に立てます
管理会社が抱えている、残置物の場面
賃貸の管理をしていると、部屋を開けた先に物が残っている場面があります。
理由はいくつかに分かれ、誰の物かがそれぞれ違います。
退去のあとに残った
借主が荷物を置いて出た。
借主は健在で、物は借主の物です。
残置物の取扱いを、契約でどう決めていたかが分かれ目になります。
夜逃げ・行方が分からない
連絡が取れない。
所有者がいるのに、聞けません。
いちばん判断が重い場面です。
入居者が亡くなった
物の所有権は相続人に移ります。
相続人が分からない、連絡が付かない、という相談が多い場面です。
オーナーから聞かれる
「あの物はどうなった。費用は誰が持つのか」。
管理会社が説明する立場にあります。
費用の目安として、国土交通省の検討会報告書(令和3年6月)にこう書かれています。
単身の賃借人が亡くなったあとの残置物の処理は、入手できた5つの見積事例の平均で1件あたり約40万円程度。
内訳のうち、人件費と処分費が、それぞれ3割から4割程度を占めていたとのことです。
事例は5件で、死亡後の処理の話です。
すべての退去に当てはまる数字ではありません。
勝手に処分も売却もできない理由
公的資料で確かめられるのは、次の点です。
入居者が亡くなったとき
国土交通省の「単身入居者の受入れガイド」(第5版・令和7年10月)に、賃借権と居室内の残置物の所有権は、その相続人に承継されると書かれています。
相続人が分からない場合は、相続財産清算人の制度があります。
家庭裁判所が選ぶ人が管理し、価値のある物の処分には家庭裁判所の許可を求める流れです。
モデル契約条項があるとき
国土交通省と法務省が令和3年6月に公開しました。
入居時に、賃借人が受任者へ賃貸借契約の解除と残置物の処理を委任しておく形です。
想定は60歳以上の単身の方で、使うことが義務ではありません。
管理会社が見ておきたいのは、モデル契約条項の解説に書かれた次の点です。
- 解除の委任では、賃貸人は受任者になるべきではないとされています。
管理会社は直ちに無効とはいえないものの、オーナーの利益を優先せず、賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応することが求められます
- 受任者は所有権を取得しません。
換価して得た代金も取得できず、相続人へ返す義務があります。
かかった費用は、換価代金から控除できます
- 換価できる物は、換価するように努めます。
方法は、一般的なリサイクル業者に査定してもらうなど、取引の通念から見て相当なものです
- 高額な物が指定されていないことを理由に、受任者自身が引き取ることは、問題があるとされています
- 搬出の前に、第三者の立会いのもとで状況を確認し、写真などで記録します。
管理会社や仲介業者が立会人になることも妨げられていません

ここから見えること
管理会社が自社で安く引き取る形は、相続人の利益に反しやすく、避けるのが安全です。
一方で、価値のある物を捨てずに換価する道は、公的資料がむしろ努力として求めています。
つまり、買取は禁じられておらず、誰がどういう立場で、どう売るかが問われています。
なお、モデル契約条項は入居時に結ぶ契約です。
結んでいない部屋、借主が健在で退去した部屋、夜逃げの部屋については、公的資料で確かめられたのは、法的根拠が不明確で賃貸人が対応に苦慮している、という報告書の記述までです。
契約書の特約、同意書、相続人の確認の取り方は、弁護士等に確認してから進めてください。
値段が付く物と、付かない物
処分費が出る物の中に、買える物が混ざっています。
ここは、物の種類で見ます。
| 分け方 | 物の例 | 見るところ |
| 値段が付きやすい | 金・プラチナ・銀の貴金属、腕時計、ブランド品、切手、記念硬貨 | 貴金属は壊れていても重さと刻印で見ます。 時計は動かなくても値が付くものがあります |
| 見極めが要る | 骨董・美術品、着物、カメラ、貴金属に見える装身具 | 価値の幅が大きく、独学では外しやすい。 専門の目を借ります |
| 付きにくい | 傷んだ衣類や寝具、日用品、使用感の強い家具・家電 | 多くは処分の対象。 無理に買わず、許可のある業者へ |
| 売買の対象にしない | 現金、通帳、印鑑、権利書類、写真、位牌、手紙 | 財産や手続きに関わる物。 相続人へ渡す物として分けます |
貴金属や時計は、処分の山に入れる前に別に分けます。
値段が付くかどうかは、そのあとです。
買い取りの考え方そのものは、不用品回収と買取や遺品整理士と買取にも書きました。
管理会社の場合に違うのは、物の持ち主が、依頼主とは別にいることが多い点です。
古物商許可と、買う場合・業者に頼む場合
人から物を買い取って売ることは、古物営業にあたります。
賃貸管理の許可や宅建業免許とは別に、古物商許可が要ります。
手数料は19,000円、審査は約40日です。
法人で取る場合の書類は法人で取る場合の記事に、取り方は古物商許可の記事に書いています。
自社で買い取る場合
古物商許可が要ります。
そのうえで、所有者である相続人(または借主)の同意を取り、本人確認と台帳の記録をします。
受任者の立場で管理会社が自分で引き取る形は、前の章のとおり避けます。
許可のある業者に頼む場合
管理会社に許可は要りません。
査定を業者に頼み、買取の代金は所有者側へ。
モデル契約条項の解説が挙げる、一般的な業者に査定してもらう方法と同じ形です。

処分する物は、また別の許可です
解説には、受任者が残置物の運搬や処分をリサイクル業者などへ委託するとき、原則としてその業者に廃棄物処理業の許可が要ることに留意するよう書かれています。
古物商許可は買い取るための許可で、処分のための許可ではありません。
どちらを選ぶかは、件数と体制で決まります。
月に数件で、貴金属だけでも判断できる人がいるなら、自社で持つ形も考えられます。
件数が少ない、あるいは立場が受任者になる案件が多いなら、業者に査定を頼む形から始める方が、許可を待たずに始められます。
買い取る方法の違いは、店頭・出張・催事の3つの形の記事も参考になります。
偽物の見極め
買い取る側に回るなら、偽物をつかまないことが最初の課題になります。
ブランド品や時計は、持ち主が本物と信じていても、偽物のことがあります。
残置物は、持ち主に聞けない物が多く、由来の分からない物が混ざります。
買取業界専門家・安場さんの回答
一番損をした買取は、何でしたか。
やはり、偽物をつかんだことです。
正直、ここでお伝えできないような失敗も多くしました。
損金の額も、かなり大きいです。
買取事業で偽物をつかむことは、大きな損失になります。
出張買取は、店頭買取に比べると偽物の持ち込みは少ないです。
ただ、ゼロではありません。
注意が必要です。
偽物を買ってしまった場合にどうなるかは、偽物を買ってしまったらに書きました。
返金、市場での扱い、警察への届出の順です。
管理会社がここで取れる手は、買わない、または専門の業者に見てもらってから決めることです。
始める順番
-
誰の物かを分けて、記録する
退去か、夜逃げか、死亡か。
所有者は誰か、連絡はつくかを、案件ごとに分けます。
搬出の前に、立会いのもと、写真で状況を残します。
-
契約書と同意書の形を見直す
残置物の取扱いを、賃貸借契約の特約や同意書でどう決めているか。
文面は弁護士等に確認してから使います。
-
処分する物と、売る物を、仕分けの段階で分ける
貴金属・時計・ブランド品・切手は、処分の山に入れる前に別にします。
現金・通帳・印鑑などは、売買の対象から外します。
-
値段が付く物は、業者に査定を頼む
まずは許可のある業者に見てもらい、相場と流れをつかみます。
自社で買う場合は、古物商許可の申請を並行して進めます。
-
オーナーと所有者に、書面で報告する
何があり、何を売り、いくらで、処分費はいくらか。
モデル契約条項の解説では、受任者は換価代金を取得できず、費用を差し引いた残りを相続人へ返します。
費用との差し引きの扱いは、契約と所有者によって変わるため、弁護士等に確認してください。
管理会社に増える変化は、次のとおりです。
処分の山に入れていた物に、値段が付くかどうかを見る目。
オーナーと相続人に出す報告に、品名と金額の記録。
何を売り、何を渡し、何を処分したかが、書面で説明できるようになります。
よくある質問
- 退去した部屋に残った物は、管理会社が売却して処分費に充ててよいですか。
- 一律にできるとは言えません。
入居者が亡くなった場合、国土交通省のガイドでは残置物の所有権は相続人に承継されるとされています。
借主が健在で退去した場合や夜逃げの場合は、契約書の特約や同意書の有無で扱いが変わります。
公的資料で確かめられたのは、賃貸人が残置物処分の法的根拠の不明確さに苦慮しているという点までですので、売却の前に弁護士等へ確認してください。
- モデル契約条項とは何ですか。管理会社に関係がありますか。
- 国土交通省と法務省が令和3年6月に公開した、残置物の処理等に関する契約のひな形です。
入居時に、賃借人が受任者へ賃貸借契約の解除と残置物の処理を委任しておく形で、原則として60歳以上の単身の方の入居を想定しています。
使うことは義務ではありません。
管理会社は、受任者になる場合の立場と注意点(オーナーの利益を優先せず、賃借人の相続人の利益のために誠実に対応する)が解説に書かれているため、関係があります。
- 管理会社が、残置物の中の貴金属を自社で買い取ってもよいですか。
- 買い取るには古物商許可が必要で、所有者の同意も要ります。
受任者として残置物の処理を受けている場合は、モデル契約条項の解説で、高額な物が指定されていないことを理由に受任者自身が引き取ることは問題があるとされています。
自社で買う形を取る場合は、立場と契約の内容を踏まえて、弁護士等に確認してください。
- 古物商許可がなくても、残置物の中の貴金属を売る方法はありますか。
- 許可のある買取業者に査定を頼み、売買は所有者側と業者の間で行う形があります。
モデル契約条項の解説でも、換価の方法として、一般的なリサイクル業者に査定してもらうといった実務が挙げられています。
管理会社は、同意の取り付けと記録の側に回れます。
- 買取代金を、残置物の処分費や原状回復の費用と差し引いてよいですか。
- 公的資料で確かめられたのは、モデル契約条項での扱いです。
受任者は換価代金を取得できず、相続人へ返す義務があり、かかった費用は換価代金から控除できます。
また、賃貸借契約に条項を置いて、敷金を充てる工夫の例が解説に挙げられています。
それ以外の案件で、買取代金と原状回復費用の差し引きがどこまでできるかは、契約と所有者によって変わるため、弁護士等に確認してください。
- 残置物の中に、偽物らしい物がありました。どうすればよいですか。
- 判断がつかない物は、買わない、または専門の業者に見てもらってから決めるのが安全です。
持ち主が本物と信じていても、偽物のことがあります。
買取業界の専門家の安場さんも、偽物をつかんだことが一番損をした買取だったと話しています。
偽物を買ってしまった場合の対応は、偽物を買ってしまったらの記事に書いています。
この記事は2026年10月時点の公開資料をもとに書いています。国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html)、同条項本文と解説(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001726434.pdf)、国土交通省「大家さんのための単身入居者の受入れガイド」第5版・令和7年10月(https://www.mlit.go.jp/common/001338112.pdf)、国土交通省 国土交通政策研究所「賃貸住宅等における残置物問題に関する検討会 報告書」令和3年6月(https://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/R3_6.pdf)、法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00262.html)。個々の案件の取扱いは、契約の内容と事情によって変わります。弁護士・司法書士および管轄の警察署にご確認ください。